ドイツ、アルゼンチン、ブラジルの三つ巴…地下鉄でも超大国同士が激突
ブラジル・ワールドカップ決勝当日、聖地マラカナンに地下鉄で向かうと、とんでもない状況に遭遇した。
キックオフの4時間前。コパカバーナ海岸の近くにある駅前は、すでに人だかり。決勝を戦うドイツとアルゼンチン、加えて開催国のブラジルのサポーターがおしくら饅頭のように、駅の入り口に殺到している。
仕方なく群衆に身を投じて流れに身を委ねてみるが、恐ろしいものである。ホームどころか、電車内でも状況は変わらないのだ。まさに、通勤ラッシュ時の山手線のような感覚。それどころか、ドイツの大男達が混ざっているものだから、圧迫感はものすごい。日本でもそうそう出くわさないプレッシャーだ。
ワールドカップ決勝直前である。当然ながら、テンションも最高潮。サポーター達は、満員電車でもお構いなしに、大声で歌い出す。
ドイツ人が野太い声をあげれば、アルゼンチン人はラテンの明るさで対抗。ブラジル人も、ここは俺の国だと言わんばかりに存在感を示し始めると、混沌ぶりに拍車がかかる。
アルゼンチン人が、ブラジルが準決勝で1−7の大敗したことを揶揄するチャントを始めれば、ブラジル人もアルゼンチンの英雄マラドーナを腐すチャントを被せてくる。ドイツ人は武士の情けか対戦国のよしみか、どこかブラジル寄り。アルゼンチン人が「ウノ、ドス、トレス、クワトロ、シンコ、セイス、シエテ」と、スペイン語で1から7までのカウントアップすることでブラジルの大敗を冷やかすと、「ブラジルは5回優勝して、俺達は3回だ。お前らはまだ2回だろ」と、それぞれのユニフォームに刺繍された星を指しながら、ブラジルの加勢に回ったりする。
何しろ決勝前の段階でも、3カ国合わせて優勝10度の超大国達。チャントも即席で出来上がる。3カ国のサポーターがそれぞれの思いの丈を歌に乗せ、まさに言いたい放題の状況。電車内で大太鼓が打ち鳴らされ、歌に合わせて、窓でも天井でもあたりかまわず平手でぶっ叩く。
乗車からマラカナンの駅までは、約30分間。ノンストップで超大国が激突するのだ。それでも、大騒ぎの渦中に身を置きながらも、羨ましいなと思ってしまうことが不思議なところ。日本に置き換えると、代表チームが勝ち上がるのはもちろん、サポーターも超大国に対抗できるようになって初めて当事者になれるのだろうかと、思いにふける。
目の前で繰り広げられる混沌ぶりに、日本のイメージを重ねていると、ドイツ人が大声でカウントアップをし始めた。
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト」
一つ多いなと思っていたら、どうやらアルゼンチンに8発ぶちこんでやるからなと、宣言しているようだ。やっぱり、超大国のスケールはデカかった。ゲルマン魂、恐るべし。
【プロフィール】
小谷紘友(おたに・こうすけ)
1987年、千葉県生まれ。学生時代から筆を執り、この1年間は日本代表の密着取材を続けてきた。尊敬する人物は、アルゼンチンのユースホステルで偶然出会ったカメラマンの六川則夫氏。
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