【最終回】ブラジルよいとこ、一度はおいで


ブラジル・ワールドカップが、ついに終わった。



サッカー王国と知られるブラジルだが、巨大な国土を持つことから、食や景勝地の宝庫でもある。



肉汁を滴らせるシュラスコ。爽快感溢れるカイピリーニャ。巨大な白亜のキリスト像がそびえ立つコルコバードの丘。壮大な迫力と神秘的な美しさを備えるというイグアスの滝。



挙げればキリがないが、今回のブラジル取材ではどれにもありつけず、どれにも訪れることはできなかった。







何しにブラジルに行ったんだ、という声がどこからともなく飛んできそうだ。いや、僕も美味しいものに舌鼓を打ったり、自然の雄大さに感嘆の声をあげたかったんですよ、本当に。



ところがいざ来てみると、移動が大変で。物価が暴騰していて。天候がめちゃくちゃで。



もう、何と言っても全てワールドカップ期間中というのが痛恨。飛行機は満席が当たり前。海沿いのホテルは驚くほどの高値。地の市内バス乗車賃は1年前の何と倍。万国共通の味マクドナルドでは、ビックマックセットが1000円超。試合会場はブラジル全土。北部のクイアバやフォルタレーザは30度越えが当たり前なのに、南部に行けば気温は下がって夜はまさに冬。レシフェやナタルでは、熱帯地方特有のスコールが容赦なく降り注いできて、ずぶ濡れ。



飛行機は長距離バスに、ホテルは薄暗いユースホステルに、シュラスコとカイピリーニャはポテトチップスとコーラに取って代わったわけですよ。体力もお金もない身にとっては、厳しい限りの1カ月超。振り返ってみると、やっぱり辛かった。大体、ポルトガル語、わかんねえし。







何だか愚痴ばかりになってしまったけれど、それでも来なければ良かったとか、ブラジルを恨むとか、そんなことはこれっぽっちも思わないことが不思議なところ。



何しろ、試合は抜群に面白かったし、ブラジル人は優しく、底抜けに明るかった。



観客は攻めっ気や果敢に勝負を挑む姿勢を見せる国に、思いっきり肩入れするからスタジアムの雰囲気は最高。言葉がわかんなくても、困った顔をしていると、どこからともなくやってきた人々に囲まれる。誤解なきよう、集団強盗に遭っているわけではない。心配して寄ってきてくれるのだ。弾けんばかりの笑顔は、こちらまで思わず顔をほころばすほど。振り返れば振り返るほど、愚痴なんてどうでもよくなってくる。



今回のワールドカップでブラジルに興味を持った方々。一回行ってみることを強く勧めたい。



日本の真裏にあたるから訪れることは簡単じゃない。ワールドカップも終わったし。いやいや、2年後にはリオデジャネイロでオリンピックが開かれる。動機づけには十分だ。







それでも、まだ腰が上がらないというなら、取って置きの情報を。



世界最大の日系人コミュニティを抱えることもあってか、ブラジル人はとにかく日本人に敬意を払ってくれる。どれくらいかと言えば、ナタルのユースホステルのオッチャンが、「ブラジル人の女の子は、日本人のことをセクシーだと思っているんだ。お前もその気になれば××」ってのたまうぐらい。



どこの馬の骨か分からん奴の話なんて、信用できるかって。是非、自分自身で確かめて欲しいと強く思う。損はしないと思うぞ。








若手ライター小谷紘友のブラジル放浪日記 −完−


【プロフィール】
小谷紘友(おたに・こうすけ)
1987年、千葉県生まれ。学生時代から筆を執り、この1年間は日本代表の密着取材を続けてきた。尊敬する人物は、アルゼンチンのユースホステルで偶然出会ったカメラマンの六川則夫氏。
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